ボードウォークの恋人たち
「スプモーニ作って」

熱くなった頬と早くなった鼓動を知られたくなくてわざとぶっきらぼうに言ってしまう。

「かしこまりました、お姫さま」

ハルはそんな私の態度を気にする様子もなく器用に美しい仕草でシェイカーを振る。

真剣な眼差し、引き締まった上腕、容姿も所作も美しい。こんなバーテンダーがいたらそのお店はさぞかし繁盛することだろう。女性客で溢れるに違いない。

「副業でハルを雇ってバーを開こうかな」
「あほか」

思わず漏れた呟きにハルが呆れたような冷たい視線をよこしてくる。
「うん、一発当ててお金が余るほどできてハルが食いっぱぐれることがあったらバーテンダーとして雇ってあげるね」

「下らんこと言ってないで飲め、ほら」

私の前に置かれたシャンパンホワイトの液体にライムがぽとんと落とされる。

「明日もお互い仕事だからちょっと薄くしておいた」

「そっか。うん、ありがと」

「水音の酔った姿はまた次の機会の楽しみにしておくよ」

「アレはもうやんないし」
唇を尖らすとくくくっと笑われた。

「また作ってくれる?」
醜態は見せられないが、ハルの作ったお酒は飲みたいと思う。美味しいし、何と言っても宅飲みは帰りの心配をしなくてもいい。

「ああ。時間が合えばな」

「私が新しい住まいを見つけるまでの間に時間作ってね」

途端にハルが顔をしかめた。気のせいか舌打ちまで聞こえたような。

「お前はまだそんなこと言ってんのか。若い女のくせに危機感ってのはないのか、あ?」

「やだ、怖いよハル。怒らないでよ。私だって考えてるから、セキュリティでしょ、セキュリティ。それを基準に探してるってば」

「だったらここが安全だろっ」

「わかってるよ。でもここの家賃かなり高いでしょ。私のお給料じゃ半額出せないし。家賃も払わず居候だなんてそんな図々しいこともできないよ」

遠慮しながら暮らすのも図々しく暮らすのもまっぴらごめんだ。
おまけに私は3交代勤務をしているから生活も不規則、深夜帰宅もあれば深夜に出勤もある。
そのためハルに気を遣わせてしまうこともあるだろうし、やっぱり一人の方が気を遣わなくていい。


はあああああー
ハルがわざとらしく大きなため息をついた。
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