ボードウォークの恋人たち

先に入浴を済ませ髪を乾かしているところでハルが帰ってきた。

ハルの「ただいま」に「おかえり」と返すとハルがうちに泊まりにきていた昔を思い出してしまう。
毎週末泊まりに来ていたハルは兄と共に塾に行き二ノ宮の家に帰ってきていたから当然そこで交わされる挨拶は『行ってきます』『行ってらっしゃい』と『ただいま』『お帰り』だった。

「”お帰り”かー。やっぱ一人暮らしじゃないっていいな。帰ってきて人の気配があっていい匂いまでする。はー、癒される。夕飯何?」

帰宅したハルは上機嫌だ。

そういえばハルのご両親は別居していてあの当時ハルはお父さんと二人暮らしだったと聞いている。
今はどうなっているのか知らないけれど。まだ別居中なのか、和解したのか、離婚したのか。

中学生だったハルと兄。ハルが頻繁に二ノ宮の家に遊びに来るようになるとハルの家庭の事情も耳にするようになった。
日中は家政婦さんがいるものの夜は帰宅してしまい、父親も忙しくしていて帰宅は深夜になることもざらだという。ハルが毎日一人で食事をしていると知ったうちの母はすぐに動いた。

「これから塾の帰りはうちで暁人と水音と一緒に夕飯を食べましょう。もうハル君のお父さんの了解は取ってあるから」
母のそれは誘いというより既に決定事項。まだ幼さの残る顔をした中学生のハルは目を丸くして驚いていたっけ。

週の半分はハルはうちにいた。母が車で送っていくこともあれば泊っていくこともある。週末は泊っていたからもう帰らなくてもいいんじゃないかと子供の私は思っていたこともあった。
ハルの存在はうちの家族には抵抗がなかった。
うちも父が忙しくてあまり家にいなかったからハルが来て賑やかになり母も楽しそうだった。

そんな生活はハルが高校を卒業するまで続き、さすがに大学生になるとたまに顔を出すだけになっていた。
その後はあんなことがあって私が避けていたせいもあるけど、卒業する頃にはハルの顔を見なくなり卒業したら…いなくなっていた。
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