ボードウォークの恋人たち
家庭の味や家族の団欒というキーワードに縁遠いハルの生い立ち。
だから『お帰り』にことさら反応するのだろう。

「今夜も和食だよ。ぶりの照り焼きに筑前煮」

「おお、どっちも俺の好物じゃん」
ハルは顔を緩めて本当に嬉しそうな顔をした。

「懐かしいでしょ。味はうちのお母さん仕込みだから自信ありよ。ハルもお風呂に入ってきたら?その間に仕上げておくから一緒に食べよう」

「水音待ってなくーー」
「偶然だよ、偶然。待ってないから。先にお風呂に入ろうと思っただけ。偶然同じ時間になったの。だからいいでしょ、一緒に食べよう?」

待ってなくていいって言ったのにと言われると思いハルの言葉を遮った。
お願いって顔をしたらハルは額のあたりをがりがりと掻くような仕草をして「しょうがねえな」と呟いた。

よし、勝った。

「ハイ、お風呂どうぞ」にこやかにハルの背中を押し出し心の中でガッツポーズを作った。

一人で食べるより二人で食べた方が美味しいよ、ね、ハル。

ハルのご両親がいつから別居していたのかは知らないけれど、うちに来たばかりの頃のハルはすっかり一人での食事に慣れていたせいか食卓での母と兄、私のにぎやかさに驚いたように目を瞬かせていたっけ。

あの頃のことはよく覚えている。
ハルはすぐにうちの家庭に馴染んでいた。

私は兄のカッコイイ友達が頻繁にうちに来て一緒にご飯を食べたまに泊まっていくことが嬉しかった。
一人っ子だったせいかハルは私のことを可愛がってくれたし、兄よりずっと面倒見がよかったし。

だからあの頃面倒を見てもらったお礼をしよう。
できるだけ美味しいご飯を作ろう、そう決めた。
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