ボードウォークの恋人たち
そう、大江さんには長年付き合っているお相手がいたのだ。

ただ、彼女は売れないピアニストで海外を拠点にしていて年に数回しか会えないのだという。
名のある大きなコンクールの受賞経験はなく小さなコンクールの入賞経験のみ。だけどピアニストとしての夢を諦められず、海外で仕事をしながらレッスンを受けコンクールを目指す生活をしている。
そんな彼女を大江さんは辛抱強く応援していた。
自分の納得いくまでやればいいと。

でも辛抱できなくなったのは大江さんのご両親だ。
大きな会社の御曹司がいつまでたっても結婚しない。相手がいないのならまだしもいつ結婚するのかわからないような相手がいる状況は経営者としても親としてもガマンが出来なくなったのだろう。
大江さんが35才になっていたからだ。

大江さんのご両親が手配したのは重要な取引先の娘とのお見合いだった。
そう、大病院を持つ二ノ宮グループの娘二ノ宮水音、私との見合いだ。

医療機器メーカーから見た総合病院2つといろいろな施設を持つ二ノ宮グループはとても大切な顧客だ。
親が勝手に決めたといっても責任ある立場の大江さんがそのお見合いを無視することはできないだろうというのが大江さんのご両親の思惑だった。

お見合い後に断ることもできたはずなのだけれど、大江さんはあの日二人きりになった途端に言ったのだ。
事前に見合いが取りやめになるよう努力したが見合い話をなかったことにできなかった。自分には大事な人がいるので断る前提であなたとお見合いをすることになってしまった。大変申し訳ない、と。

大江さんも悩んでいた。
やりたいだけチャレンジしていいと言いながらその実彼女を縛っているのではないかと。
彼女とこのままの関係でいいのかと。

彼女に会いに行き二人で話し合えばいいと話をしていたらハルが来たのだ。

ーーー結局ハルが乱入したせいで大江さんとゆっくる話をすることは出来なくなり。後で知ったのだけれど、あのオープンカフェには双方の両親もいてバッチリと私とハルの姿は目撃されてしまったというから二ノ宮の娘との縁談どころじゃなくなったらしい。
< 70 / 189 >

この作品をシェア

pagetop