ボードウォークの恋人たち
「次のコンクールでダメなら彼女は区切りをつけて帰ってきて花嫁修業をするそうです。入賞したら名誉と共に帰ってきてこちらを本拠地にして活動することにすると言っています。・・・彼女もわかっていたんです。若い人が次々と入賞していく横で自分にはそこまでの才能はないと。でも思い切るタイミングがなかった。別居婚を提案した俺に怒ってました。どうして早く帰ってこいって言ってくれなかったのかって」

はははと照れくさそうに笑い「きっかけを作ってくれた水音さんに感謝します」と今度は丁寧に頭を下げてきた。

「いえ、私なんて結局何もーーー」

「でも、時間稼ぎに協力するから向かい合うようにと言ってくださったのは水音さんですから」

いやいや、そうかもしれないけどきちんと向き合ったのは大江さんだ。

「乾杯しましょう。大江さんの婚約に」

「ありがとうございます」

私たちはグラスを合わせた。
嬉しそうに微笑むイケメン。ああ神々しい。

今夜の私と大江さんの会食のことは彼女さんも知っているということで私としては安心して食事ができる。
先ほど大江さんに彼女さんからの私宛の感謝のメッセージを見せてもらっていた。きっかけを作ってくれた私に感謝するというものだった。

「彼女が帰国したら水音さんに会いたいと言ってます。一緒に食事でもいかがですか」

「もちろんです。私もぜひお会いしたいです」

高校の後輩だという彼女さんだけど、長年このイケメンのハートをがっちり掴んでいた極意をぜひお聞きしてみたい。
お会いする日が楽しみだ。

「ところで、水音さんの方は?」

「え?」

「あの水音さんを見合いの席から奪還した彼ですよ。入籍日は決まったんですか?式はどちらで?」

式ぃ?!

思わず口の中のワインをぶっと噴き出すところだった。危なかった!ホントに。
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