ボードウォークの恋人たち
「ないです。ないです、そんなもの。そもそも彼とそんな関係じゃないですし」

むせながら答えると大江さんは苦笑している。

「ムリです、そんな言い訳は通用しませんよ」

えーん、本当なのに。
「彼は兄の友人で、偶然6年振りに会って…」

「ああ、私たちみたいに長年の付き合いでしかも遠距離だったということですか」

いやそうだけど、そうでなくーーー

「彼、とても素敵な人でしたね。あれだけの容姿では毎日水音さんも心配でしょう」

私との関係はともかくとして、ハルのルックスが満点なのは当たりです。

「そうなんですよね。昔からモテモテで。私なんて友人の妹ってだけなのに中校生の頃はハル狙いの女の人から凄い目で睨まれたりして。怖かったですよ」

「それはそれは・・・」大江さんは気の毒そうな目を私に向けてワインを継ぎ足してくれた。

「でも大江さんの彼女さんも日本にいた頃は大変な思いをされてたと思いますよ。それに今は遠く離れてるからさぞかし心配してるんじゃないんですか。大江さん相当なイケメンだから」

「イケメンってわけではないですが・・・うちの彼女は心配などしていないと思いますよ。でも、水音さんのように若くてキラキラしている可愛らしいお嬢さんにイケメンと言われると結構嬉しいものですね。」

困ったような顔をしながらもニコリと笑顔を見せてくれた。
やっぱり神々しい。

大江さんにはイケメンの自覚がないのか。
だったらなおさら彼女さんは心配だろうな。どうやって気持ちをコントロールしているんだろう。


すっかり親しくなった私たちは大江さんの彼女さんが帰国したらまた会うことを約束した。



帰りのタクシーの中でスマホを確認するとハルからのメッセージと着信が入っている。
今夜は大学の医局に行くから夕飯はいらないって言ってたけどもう終わったのかな。
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