ボードウォークの恋人たち
ハルの誕生日
気が付けばハルと暮らし始めて3ヶ月が経っていた。
あっという間の3ヶ月。ハルとの暮らしはーー何というか、心地いい。
お互い仕事を持っているからすれ違いが多くて、同居しているのに程よい距離感がある。
時間が合えば一緒に食事をするし、顔を合わせない日はダイニングのスケジュール表にメッセージメモを貼り付けたりしてコミュニケーションをとっていたから身近な存在であることは間違いない。
季節も変わり、ハルの誕生日が近付いてきている。
ハタチのプレゼントのお返しと私もハルの三十路のお祝いをしてあげられなかったぶん何かあげたい。
ハルは何をあげたら喜んでくれるだろうか。悩みに悩んで兄に助けを求めたのだけど。
「治臣の欲しいもの?そんなのリボンでぐるぐる巻きにしたお前でもくれてやれば?」
バカなの?バカじゃん。何なの、リボンでぐるぐる巻きとか。
「やっぱ兄に聞いた私がバカだったわ」
電話の向こうの兄に殺意が湧く。
「治臣の欲しいものなら治臣に聞けよ」
「聞いた、そんなのとっくに。私の作るご飯でいいって言うんだもん。話にならない」
私だって何かプレゼントしたいのに。ご飯だったらいつもと変わらないじゃない。
「うーん、治臣の好きなものって言ったら…昔、水音の頬をむにむに掴みたいって言ってたからそれでいいだろ。好きなだけつかませてやれば?」
は?誕生日プレゼントに私のほっぺ?
「もう。お兄ちゃんに聞いて損したわ。もういい。じゃあね」
時間を無駄にした気がする。真面目に聞いたのに。
仕事の評判とそこそこ顔はいいのに使えない兄だ。
それからもハルが欲しがるものは何だろうと考え、困った私は気が付かないうちに日常的にハルを観察していたらしい。
リビングで寛いでいるとき、お風呂上がりでミネラルウォーターを飲んでいるとき、それこそ起きてから寝るまで。
ある日、朝ごはんのオープンサンドを食べていた時にハルが困ったように笑い出した。
「水音、そんなに見られたら食べにくいんだけど。この間からずいぶん観察されてる気がする。どうせならもっと愛しそうに見てくれない?」
「ひゃーごめんっ」
どうやら最近見つめすぎていたらしい。
「何で見てたかわかる気はするけどな」
ハルはくつくつと笑い「気にすることないのに」と付け足した。
「私も何かしたいのよ!」
「だったらデートしようか。まるまる1日ずっと」
ハルからの思わぬ提案に首を傾けて考えてみる。