ボードウォークの恋人たち

「ハル、お休み取れるの?」
一番の問題はそれじゃないだろうか。

「大学の研究日なら休んで平気だ。ちょうど誕生日当日だし大丈夫だよ。水音は?」

自分の勤務もハルの誕生日当日は休みで翌日は夕方からの勤務になっているから実質一日半の休みで時間的にはハルよりも余裕だ。

「うん、大丈夫。じゃあデートね。ん?デート?デートって何するの?どこか行きたいところがあるの?」

「行きたいところってわけじゃないけど、やってみたかったことならある」

ハルは思わせぶりな笑顔を見せた。

「何?どこで何したいの?」

「二人で出かけたいな。ショッピングモールでも公園でも美術館でも、遊園地でもいいよ、水音とゆっくり過ごしてみたい。二人で歩いたり、カフェで休憩したり、公園で昼寝っていうのにも憧れるな。どう?」

ハルの提案は予想外だった。
お金のない私に気を遣ってるとしか思えないんだけど。
「学生さんのデートみたいな感じ?」

「そうだな、それ」

「私にお金がないから心配してる?」

確かにハルみたいに高給取りじゃないけど、夜勤もしているし同年齢の女性の中ではそれなりの収入はあるんだけどな。

「そうじゃないよ」

ハルは困ったように眉を下げる。
「俺が高校生だった頃水音はまだ小学生だったし。年の差があるとその時代にそんなデートみたいなことできなかっただろ。だから今更だけどやってみたい」

「ーーーまあやりたいのならいいけど」
ハルはその時期同世代のいろいろな女の子を連れ歩いていたからデート三昧だったじゃないかと思うんだけど。
昔を懐かしみたいと思うのなら付き合ってあげてもいい。

「おう、なら決まりだな。午前中から出掛けようぜ」

どこに行こうかと嬉しそうにスマホの地図アプリを開くハルを見ると私に気を遣って選んでいるわけじゃないような気がする。

「なあなあ、都会の小さな美術館と郊外の大きな公園はどっちがいい?」

小さな美術館と大きな公園って。
小さな美術館と大きな美術館を比較するのでも小さな公園と大きな公園ではないの?都会と郊外でもないし。
どういう選択肢になっているんだか。
結局ハルの行きたいところはどこなんだろう。

「美術館は展示の内容によるけど。今何をやってるの?郊外の公園のおすすめポイントは何?」

美術館はさーーーと楽しそうに説明するハルに自分の行きたいところに行けばいいのにと思ったけれど、私にも選択肢を与えてくれるのだからなるべくハルの希望に沿ったところを選んであげようと思うのだった。


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