ボードウォークの恋人たち
その状態も突然に終わった。
ブブブブ・・・とハルのスマホが震えだしたからだ。

胸ポケットに入れられていたハルのスマホの振動が彼と抱き合っている私の身体をも震わせる。
メッセージではなく電話らしく中々鳴りやまないそれに諦めたようにハルは私から離れて行った。

ため息をつきながらスマホを確認して・・・ハルはそれを無視した。

「出なくていいの?」

「いい。たいした用じゃないから」

不機嫌さを隠そうともしないでハルはシャツの首元のボタンに手をかけた。

「シャワー浴びてくるよ。水音は先に寝てて。明日デートだから」

私の返事も待たずに「お休み」とバスルームに向かって行ってしまった。

ポツンと残された私はひとりリビングで大きなため息をついてしまう。

あれはたぶん、女性からの電話。
それもハルに好意のある女性から。

だって零時ちょうどにかかってきたし。

今日はハルの誕生日。
電話の向こう側にいる人は誰よりも一番にハルにおめでとうが言いたかったのだろう。

女の直感。

ーーーハルにお付き合いする女性ができたのだろうか。
やっぱりここを出たほうがいいのかもしれない。

子どもの頃のように自分の知らない女性から嫌悪の目で見られることも悪意のある言葉を投げかけられるのも嫌だ。
あの頃は女性からの視線に気付かぬふりをするくらいしかできなかった子どもの私だったけど、今なら。

本当の妹ではない私がずるずるとハルに甘えて引っ越すことができなかったのは、ハルに昔のような女性の影がなかったからで。
ハルの周りに女性がいるのであれば私は離れようと思う。

それは自分のためでありハルのため。



シャワーの音がするバスルームに向かって小さく呟いた。

「お誕生日おめでとう、ハル」








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