ボードウォークの恋人たち
予定通り午前中に家を出て都内にある小さな美術館巡りをした。
今までは知らなかったけど都内にはいくつも小さな美術館があることを知った。
大きめな一戸建て住宅を改装したようなところや細長い4階建ての建物の1階部分だけの美術館とか。
散歩をしながら偶然見つけたカフェでランチして。
学生っぽさを追求して車は使わず移動は全て電車とバス。
さすがに疲れた私たちは休憩するため近くの公園に移動した。
芝生に並んで仲良く腰を下ろすと、本当にデートしているみたいだ。
「いっぱい歩いたし、いっぱいいろいろ観たね」
「ああ、こんなに歩いたのっていつ以来だろうと思ったよ」
「今度は浮世絵も観たいな。江戸博物館とか楽しそう」
「いいな、賛成」
昨夜いきなり抱きしめてきたハルだったけれど、今朝はいつものハルに戻っていて。あれは酔っぱらいの所業だと気にしないことにした。
こうしてデートっぽいことをしていても手を繋ぐこともなくお行儀よく二人並んで歩くだけだし。
いや、残念に思ってるわけじゃないけど。
デートって言うからどんな感じかなと思っただけで。
テイクアウトしたアイスコーヒーを飲みながら広々とした芝生の向こうで戯れる子どもたちやボール遊びをする犬の姿をぼんやりと眺めているとゆったりした気持ちになる。
大きな雲はなく緩やかな風が時折吹く程度で気持ちのよい日だ。
穏やかな時間が流れていて、仕事に追われる日々が嘘のよう。
あくびを噛み殺していると、隣に座るハルがふあっと大きなあくびをした。
「ふふっ。やっぱり眠いんでしょ。だから朝ゆっくり寝てもいいよって言ったのに」
眠そうなハルは更にもう一度あくびをした。
「うん。じゃあちょっとだけ寝る。膝貸して」
そう言うと、素早い動きでごろりと横になり私の膝に頭を乗せ目を閉じてしまった。
嘘でしょ。
膝枕だ。
「ハル」
驚いて声を出した私に
「寝かせて。ちょっとだから」
ハルは目も開けない。
よく見るとまたハルの目の下の血色がよくない。
仕方ないか、少しだけ寝かせてあげる。
私はハルの顔に日射しが当たらないように背中を丸めてお日さまから守った。