ボードウォークの恋人たち
ん・・・もぞもぞとハルが動いたことで自分までも一緒に眠っていたことに気が付いた。

膝に感じるハルの温もりとお日さまのせいで欠伸が出たことは覚えているのだけど・・・どうやら私までうとうとと眠っていたらしい。

ボーっとしながらハルの様子を確認すると、まだハルは眠っているようだった。
柔らかそうな髪に、長いまつ毛。気のせいか目の下のクマは薄くなってるようにも見える。

最近特に忙しそうなハルのことが心配になっていた。

ハルだけじゃないけれどドクターは忙しい。特にハルの殺人的スケジュールはおかしいんじゃないかと思う。
3か所も勤務して診療も研究もして当直までしてる。
休みなんてほとんど取ってないし。ハルの仕事はそうまでしてしなくちゃいけないんだろうか。

同じふたば台病院に勤務してるドクターの中にはキチンと休みを取りながら人間的な生活をしている人だっている。家庭を持って子どもとの時間を作りながら仕事もきちんとしているドクターだっているし。
何かに追われるように日々を過ごすハルがとても心配だ。


サラサラの前髪が風に揺れ、くすぐったくないのかなと右手で風からかばった拍子にハルの髪が手に触れてしまった。

ああ、見た目通りサラサラだわ。
見慣れたハルの髪の毛だけど、こんなふうに触ったことはない。もう少し触れてみたいと思ってしまう。


大昔に恋したハルの顔が目の前にある。
親友の妹として彼の近くにいたけれど、昔から私とハルの心の距離は近くて遠かった。
子供の頃の年の差は今よりも大きい。ハルが大学に入学した年に私は小学校を卒業してやっと中学生。
大人と子ども。

ハルは私に対して兄のように、ううん、時には父親のように接していた。私は恋する少女だったのにも関わらず。

誘惑に負けてそっとハルのさらさらの髪に触れてみるとどんどん胸の奥がざわざわとし始める。

あの頃ハルのことが好きだった。それは幼い恋かもしれないけれど、本当に好きだった。だからハルの周りに常にいた女たちの存在が辛かった。

自分の気持ちを殺して憎むようにして離れたのに、どうしてハルは今さら私の近くにーーー

こんな風にハルが近くにいるから最近は昔のことを思い出してばかりいる。
歯を食いしばりハルの髪に触れていた手を離して芝生に手をつくと天を仰いだ。

空は高く青く広い。
ここに来た時には真上にあったお日さまがやや西に移動していて少しだけ雲がでてきていた。

あのままハルが私の前に戻って来なければこんなに胸がざわつくことはなかったし、イヤな思い出だって忘れていた。

だいたいどうして音信不通になったのか、どこでどうしていたのかもすぐに話してくれないなんて意味がわからない。それで帰ってきていきなり婚約者だと言いだすだなんてかふざけてるとしか思えない。
妹を守るだけなら周囲に婚約者だなんて言う必要はなかったはずだ。
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