ボードウォークの恋人たち
はぁ。

「ん・・・」ハルがぴくりと身体を揺らした。
思わずついてしまった私の大きなため息でハルを起こしてしまったみたい。

顔をのぞき込むと、眩しそうに薄目を開けた寝ぼけ眼のハルと目が合った。

「ごめんね、起こしちゃった?」

「あー、ごめん、俺こそ。ちょっと休憩するつもりだったのがぐっすり寝てたんだな」

よっと掛け声をかけ私の膝からハルの身体が離れていく。

「ああ、よく寝た。身体がスッキリ軽くなったよ。サンキューな」

ううーんと長い両手を突き上げ伸びをすると首をこきこきと回している。
ハルの顔色は眠る前より良くなったように見えてホッとしてしまう。

100人いたら100人が好印象を抱くようなハルの笑みを正面から向けられ私の胸の奥がまた疼きだす。
だから、そんな顔見せないで。そんな笑顔をばらまかないで。
自分がハルの特別だって勘違いしそうになるから。

「別に」
だから私の口から出たのは可愛くない返事だった。ついでに言うなら態度も可愛くなかったはずだ。視線もそらしてしまったから。
ダメだ、過去を思い出してしまってどうしてもいやな態度になってしまう。

「今からは何する?まだ夕飯には早いでしょ」
今日はハルのためのお出かけなのだからと気を取り直して笑顔を向けた。

「メシの下ごしらえとかあるの?」
私のぎこちない笑顔に気が付いていただろうけど、ハルは気にした様子はない。

「もう済んでるからだいじょーぶ」

今日はハルのための1日。
今夜の夕飯はハルのリクエストで私の手料理と決まっていた。

事前に何が食べたい?と聞いた私に
「舞茸の炊き込みご飯に豚汁、メインは何でもいい」なんてハルの誕生日っぽくないリクエストに驚いて私が微妙な顔をしてしまっていたらしく「水音が何でもいいって言っただろ」と拗ねたように唇を尖らせていたっけ。

30過ぎても唇を尖らせて格好いいなんて反則だと思う。
ハルはいくつになっても魅力的な男だ。

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