ボードウォークの恋人たち

トラウマ

ハルに連れられてやって来たのは銀座の有名洋菓子店『アプレミディ』

予約はしていなかった。お外デートの帰り道にどこかに寄ればいい、特にケーキが好きなわけでも希望の店があるわけでもないからとハルが言ったからだ。

行列というほどではないけれど、外からでもわかるほどさほど大きくない店内には大勢の人がいるのが見える。

「水音、ここのケーキは食べたことある?」

ううんと私は首を横に振った。
お店の前は何回か通ったことがあるけど入ったことはないし食べたこともない。
私にはちょっと敷居が高いかなと思っていたお店だ。

煉瓦づくりの外観もさることながら大きな窓から見える店内のアンティーク調の高級感漂うインテリアと共にそこにいるお客さんからも漂うセレブ感。

「こんな高級店一歩も入ったことない」
ここはお金持ちが行くところだって子どもの頃から思っていた。

「水音は世間一般で言うところのお嬢さまだろうが」

「うーん、でも昔は大人のお店って思ってたし、今は普通の人と同じお給料の生活だからこーんな高級なお店のケーキは贅沢品だし。」

子供の頃だってごく普通の金銭感覚を持っているうちの母が1ピースでカフェのランチ以上の値段がするケーキなどそうそう買うわけはなく。そして父の方はそもそもケーキに興味がない。
母がお気に入りだったのは近所のパティスリーでここより3割は安いけど、味は極上だった。私は今でも大好きだ。


「初めてなら俺のオススメで選んでいいか?」

「もちろん。わからないからそっちの方が有難いくらいよ」

どうやらこの店に詳しいらしいハルにケーキ選びをお願いして列の最後尾についた。
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