ボードウォークの恋人たち
「俺たち、ね。ふぅん」

ここで初めて彼女の視線が私に流れてきた。
ハルが素早く私を背に隠したけれど、彼女は怯まず私を覗き込んだ。
素早くもしっかりと私を見定めるような値踏みされるイヤな視線に肌が粟立ってくる。

昔もハルの側にいた女性に不躾な視線を向けられることがあったけれど、何度経験しても不愉快なことに変わりがない。

「ま、いいわ」
彼女はハルににこりと笑いかける。

「明日の小野木教授の出版パーティーはもちろん出席よね。楽しみにしてるわ」

ハルの眉間のシワが深くなっているけれど彼女は全く気にならないようで笑みを深くし「また明日」とハルの返事も待たずに去って行った。

何だろう、この後味の悪さ。
吐き気に似た不快感とじくじくする胸の疼き。

彼女の後ろ姿から視線を反らしていると「水音、順番」とハルの低音ボイスが耳のすぐ近くでして私の腰に手を回される。
近すぎる距離に驚いているとそのままハルの手でキラキラまぶしいショーケースの前に押し出されてしまった。

両手を広げたほどの大きさのショーケースには色とりどりのフルーツの乗ったスイーツが並んでいる。
確かにどれも綺麗なんだけど、ね。

「どれがいい?」
「どれでもいい。ハルが決めて」

ちょっと冷たい言い方だったかもしれない。
けれど、もはや目の前に並ぶ高級スイーツにわくわくする高揚感も食欲も私から完全に消え失せていた。

そんな私の様子にハルは気に留めることなく「じゃあ」と頷いた。

「これと、これ。それとーーー」
ハルが指差すと若い女性店員さんがキラキラした目でハルを見つめ頷いている。

他のお客さんに接客している店員もチラチラとハルのことを見ているし、ホントにこのオトコと一緒にいるとこんなことばっかりだ。

ショーケースに並ぶスイーツはどれも光り輝いていてどれもこれも選ばれたいと主張している。
それがまるで以前目にしたハルに群がる女の子たちに見えて私の食欲はすっかりなくなっていた。

それを選ぶハルにもそんなハルをキラキラと見つめる店員さんにも嫌悪感を抱いている自分を自覚して更に嫌になるのだった。

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