ウエディングドレスを着せてやろう
 



「また怪しいジュース買ってんの?」

 昼休み、そんな声が後ろでして振り向くと、安芸(あき)が立っていた。

「ああ、安芸さん……

 じゃなかった。

 (たつみ)社長、こんにちは」

「名字だと、光一と被ってややこしいから、安芸でいいよ」
と花鈴の横に立ち、例の自動販売機を見上げて、安芸が言う。

 なんとなく安芸を見つめていると、
「……なに?」
と花鈴を振り向き、訊いてくる。

「いえ、安芸さんのお名前、最初は秋かと思ってたんですけど。

 安芸の宮島の安芸なんですね。
 宮島のご出身なんですか?」

「いや、出身なんじゃなくて、うちの母親がさ。
 子ども産んだら、しばらく旅行にも行けないからって出産前に旅行に行ったんだけど。

 急に産気づいて、船で宮島に渡る前に産まれちゃったんだよね。

 ああ、島に渡りたかったっ、と思って、名前を安芸の宮島からとって、安芸にしたの」

「そうなんですか。
 なんで宮島にしなかったんですかね?」

「……巽宮島っておかしくない?
 さすが光一の嫁さん、おかしな人だね」
と安芸は言うが、花鈴が光一の妻説を信じてはいないようだった。
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