ウエディングドレスを着せてやろう
 


 健康ランドに来て、別々に風呂に入り、漫画を全巻読んでいるうちに、結構いい時間になってしまった――。

 漫画とインターネットの部屋をふらりと出ながら、光一は落ち込む。

「……何をやってるんだ、俺たちは。
 なにもラブラブにならないぞ」

「難しいですね、ラブラブって」
と花鈴もうちひしがれていた。

 ふう、と溜息をついたあとで、花鈴は、

「なんだか喉乾きましたね。
 あ、あそこに自動販……」

 販売機がある、と言って、壁際の自販機に近づこうとした。

「待てっ」

 思わず、光一は叫んでいた。

 カップ式の自動販売機だったからだ。

 あそこの前に立つと、安芸さんが来そうな気がする、なんとなく、
と思った光一の視界に、自動販売機の横に貼ってあったポスターが入る。

「……西辻。
 人情芝居があるみたいだぞ」

「見たいんですか?」

 いや、別に見たくはない、と思いながらも、その大衆演劇の派手なポスターを見て、光一は言った。

「ああ、見たい。
 確か、芝居のあるホールの手前がレストランだった。

 あそこでなにか飲んで、開演を待とうか」

 専務、意外な趣味ですね、という顔をしながらも、花鈴は、
「わかりました」
と微笑み、言ってくれた。




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