ウエディングドレスを着せてやろう
 


 安芸が帰ったあとも、
「花鈴、あのお見合い相手の方、本当にいい方ね~」
 などと言っている志木子の声を聞きながら、花鈴は二階に上がろうとした。

 すると、光一からLINEが入る。

『着いたか?』

 はい、と返すと、
『電話していいか』
と入ってきた。

 はい、とまた答えると、すぐに電話が鳴り出したので、花鈴は急ぎ足で二階に上がった。

「はい」
と電話を取り、ベッドに腰掛ける。

 さっきから、はい、しか言ってないな、と思いながら。

 光一は、
「いや、今日、お前に言いそびれたことがあって」
と言い出した。

 なんだろう。

 別れてくれ。

 いや、そもそも付き合ってないし、とその口調の深刻さに悪い想像ばかりしながら黙っていると、光一は少し迷ったあとで、

「……お前、あの箱の中、見たか?」
と訊いてきた。
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