ウエディングドレスを着せてやろう
高校三年の秋、花鈴は軽く現実逃避していた。
受験が近づいてきたからだ。
学校帰り、ショーウインドウに飾られたシンプルなウエディングドレスを見ながら、
ああ、何処からか素敵な人が現れて、
「今すぐ結婚しなければならなくなったので、受験しなくていいです」
とか言ってくれないだろうか、と絶対になさそうな妄想に浸っていた。
そんな感じで、花鈴がオフショルダーでマーメイドラインの上品なドレスをぼうっと眺めていると、いきなり、誰かがガラスの横の壁に後ろから手をついてきた。
ひっ、と花鈴は身をすくめる。
逆壁ドン!?
いや、逆壁ドンって、女子が男子にやるやつかっ?
店の前にずっと立ってて邪魔だと店員さんに怒られるのだろうかと思いながら、慌てて振り返ると、そこにスーツ姿の男が立っていた。
花鈴の父も長身だが、男は更に背が高かった。
それでいて、ひょろっとした感じはなく、バランスの取れた身体つきをしているその男は、此処までくると面白みがないな、と思ってしまうくらい整った顔をしていた。
「お前、そのウエディングドレスが着たいのか?」
男は唐突にそう訊いてくる。