ウエディングドレスを着せてやろう
「ええっ?
写真だけとはいえ、専務と結婚してんの? すごいじゃないっ」
と詳しい話を聞いた詩織は身を乗り出し、叫んでくる。
「待ってっ。
じゃあ、もしかして、昨日の愉快な腹話術師は専務っ?」
なんだ、愉快な腹話術師って……。
「専務、意外なユーモアがあるのねえ」
と長テーブルの椅子に座って、すっかりいつも通りになった詩織が言う。
いや、ユーモアじゃないと思いますよ、と思っていた。
長年の嘘がバレそうになって焦っている今、あの人にそんな余裕があるとは思えない、と花鈴が思ったとき、詩織がまた叫んだ。
「えっ? ちょっと待ってっ。
じゃあ、私、専務と合コンできるってわけ?
やったあっ。
すごいメンツ連れてきそうじゃないっ?」
と突然浮かれ始める。
「そうですか?
なんか疲れそうな人たちがいっぱい来そうですよ……。
専務のお友だちなら、専務と似た感じの人でしょ?」
花鈴の頭の中では、狭いカラオケボックスの中で、もっとも生真面目な状態の光一が呑みもしないグラスを手に増殖していた。
そして、花鈴を取り囲み、一斉に仕事モードで叱ってくるのだ。