完璧御曹司の優しい結婚事情
「か、課長。資料室に行ってきます」

大半が出払っていたオフィス内で、一番近くにいた真田課長にそう告げて、返事も聞かずに急いで資料室に逃げ込んだ。

「うぅ…………」

今だけ。あと5分だけど思いながら、声を押し殺して泣いた。


長い尻尾。きれいなキジトラ模様。
私が呼べば、愛らしく鳴いて体を擦り付けてくる太郎君。太郎君のためにしてあげられることは、本当はもっとあったんじゃないかと、後悔が付きまとう。
太郎君は、ここのところ寝てばかりいた。その姿から、なんとなくお別れの時は近いんじゃないかって思ってはいた。だからこそ、頻繁に帰省してたんだけど……


不意にガチャリとドアが開く音がして、ビクリとした。
ここへ来てから、どれぐらい経っていただろうか。焦って時計に目を向けると、それほど長居はしていなかったようでホッとする。


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