完璧御曹司の優しい結婚事情
「聞けてよかったです。すみません、泣いてしまって……」

「いや、香穂のことを思えば……」

「違います！！」

私の慌てた大きな声に、課長は驚いた顔でこちらを見ていた。

「違うんです。課長が……課長の心が泣いている気がして……何年もの間、ずっと傷ついたまま泣いている気がして。そう思ったら……」

「川村さん……」

どうしても伝えたい想いがある。だから、涙を拭って呼吸を整えて、顔を上げた。
職場で見せる顔とは違う、憔悴しきった課長を見つめながら口を開いた。

「私は、香穂さんご本人じゃないので、適当なことは言いたくありません。それに、私が今の話に対して何かを言うことで、課長は気を悪くされるかもしれません。
でも、今も苦しんでいる課長を見ていたら……私が思っていることを伝えなかったら、後悔する気がして……」

必死で言葉を絞り出す私を、課長は優しさと切なさの入り混じった表情で見つめている。
〝何も知らないくせに〟〝勝手なことを言うな〟とか思われてもかまわない。少しでもこの人の心が軽くなるのならと、話を続けた。

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