完璧御曹司の優しい結婚事情

いつも、笑顔を絶やさない川村さんが、ある日、今にも泣き出しそうな顔をして、「資料室に行ってきます」と駆け出していった。明らかにおかしい態度に、おもわず後を追っていた。一体何があったのか……

彼女が駆け込んだ資料室に足を踏み入れると、奥から微かな声が聞こえてきた。そっと近付いて覗くと、そこには何かに耐えるように必死で声を押し殺して泣く川村さんがいた。その姿はどこか儚げで、いつもとあまりにも違う様子に、正直狼狽えてしまった。

こんなふうに涙を流す彼女を放っておけなくて、少し強引だったかもしれないけれど、理由を聞き出していた。


〝愛猫の死〟

当事者以外にとって、それは他人事でしかなく、〝たかが〟と思ってしまうことかもしれない。でも、香穂を失った僕には、川村さんが抱えきれずにいる悲しみがよくわかった。

どんな言葉をかければいいのかと思案していると、川村さんは自ら語り出した。