完璧御曹司の優しい結婚事情
翌朝、苦しそうな声で泣きながら謝罪する彼女の寝言に気付いて、すぐさま近付いた。切なげに涙を流す姿には、その理由も知らないのに胸を締め付けられる思いがした。
彼女から聞いた涙の理由。僕はそれを知って、過去から解放してやりたいと思った。でも、そんな傲慢な思いは彼女の言葉に消え失せた。

「もうこんな想いをしたくない……」

彼女は過去に囚われながらも、前を向いて必死にもがいていた。過去に囚われたままの、僕とは違って……


「いつか……いつか、そういう課長の抱えているものを話してもいいって思える日が来るといいですね。そんな人に出会えるといいですね」

僕が、自分の抱えている過去を話すとしたら、川村さんしかいないと思った。彼女に聞いて欲しいと。いや、彼女だからこそ聞いて欲しい。


その機会は、その後すぐに訪れた。





< 135 / 322 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop