完璧御曹司の優しい結婚事情
二度目に川村さんを泊めた翌日。彼女を自宅に送り届けたその足で、香穂のご両親の元を訪れた。香穂が亡くなって以来、だんだん足が遠のいてしまい、ずいぶん久しぶりの訪問だ。


「いらっしゃい、樹君。さあさあ、上がってね」

「ご無沙汰してます。おじゃまします」

山梨のお宅は、最後に訪れた時とあまり変わっていなかった。リビングの至る所に香穂の写真が飾られている。笑っているところ、泣いているところ、はにかんでいるところ……一枚一枚の写真全てから、ご両親の愛情を感じた。

「主人は急用で出ちゃってるの。ごめんなさいね」

コーヒーを用意しながら、母親の久美さんが言う。

「いえ。僕の方も、突然連絡してすみません」

「あらいいのよ。樹君は家族も同然なんだから。いつでも遊びにきてね」

「ありがとうございます」

久美さんの入れてくれたコーヒーを口に含みながら、心を落ち着かせた。庭の広いこの家のリビングには、外の喧騒はほとんど聞こえない。壁にかけられた大きな時計の秒針の音が、やけに大きく響いてくる。

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