完璧御曹司の優しい結婚事情
驚いて目を見開く自分の姿が、樹さんの瞳の中に見える。

さっきまで聞こえていた犬の鳴き声も、噴水の音も、何も聞こえなくなった。
ここにいるのは、私と樹さんだけのように感じる。

樹さんは、ギュッと握りしめていた私の手を、大切なものを扱うかのように、そっと自分の手で包み込んだ。

「葉月」

再び名前を呼ばれると、心が震えた。私の両目から、とめどなく涙が溢れてくる。滲む視界に映るのは、樹さんの柔らかい微笑みだけ。

「樹さん。どうして私の一番嬉しがる言葉を知ってるの?」

「そんなの、誰よりも大切な葉月のことだから、あたりまえだよ」


〝家族になって欲しい〟


愛猫の太郎君が死んでしまったあの日、私の心の奥に、一つの不安が生まれていた。ううん。本当はもうずっと前からその芽はあったのだろうけど、ずっと見ないふりをしていた。それがあの別れの日、輪郭が明確なものになっていた。


ー私はいつか、一人ぼっちになってしまうかもしれないー


年老いた祖父母がいなくなったら?
叔母夫婦だって……その家族だって……それぞれの生活があって、少しずつ疎遠になっていくだろう。

その時私は、何を思うのか。
どうしようもない不安に襲われていた。


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