完璧御曹司の優しい結婚事情
「さて、雨も降ってるし、車で自宅まで送るよ」

雰囲気を変えるように、いつもの穏やかな声で課長が言った。

「そんなにご迷惑はかけられません。傘を貸していただければ……」

「遠慮しないで。ついでに買い出しにも行きたいしね。用意してくるから、少し待ってて」

課長は本当に優しい。〝ついで〟と言われたら、断れなくなる。きっと、それをわかって言ってくれているんだろう。

しばらくすると、着替えをすませた課長がもどってきた。会社で見るスーツ姿でもなく、さっきまでのラフな格好とも違う、初めて見る私服姿だ。ブラックデニムにベージュのカットソーという、シンプルなコーディネートなのに、元々のスタイルの良さと、整った顔立ちのせいか、すごく素敵だった。おもわず見惚れていると、課長がくすくすと笑い出した。

「珍しいね。川村さんがボーッとしてる。いつも仔ウサギのようにちょこまか動き回っているイメージなのに」

「こ、仔ウサギですか？」

「そうそう。この子はいつ休んでいるんだろうってぐらい、一生懸命働いてる。
さあ、そろそろ行こうか」

私はそんなふうに見られているのか……
いろいろ思うところはあるけれど、とりあえず動き出した課長の後を追った。

< 57 / 322 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop