トワイライト(上)
「あ……の、それって……帰って来ないだけとか、そういう事では無い……です、よね……」
頭では理解してるのに言葉が追いつかず、問い掛ける口と吐き出す息が震えだす。
此方を眺めていた男性も気まずそうに小さく頷き、今ある現状を把握しようと必死に言葉を探してるのが手に取るように分かる。
互いに掛ける言葉も見つからずに暫く黙り込み、ただ過ぎ去る時間の中で打開策を捻り出そうとしていた。
その時、不意に彼が此方を見つめて静かに語り出す。
「此処で一緒に住むなら必ず挨拶はするのと家事は別々にして
プライベートは干渉しないのと報連相も忘れずに……
最後に、お互いに恋人が出来たら部屋を出る……思い付く限りだけど」
それは暮す上での必然的な作法と規則に挙げられ、思い付いて口にするのは容易い事ではない。
男性の態度は此方を気遣いながらも立場の弱い女性として配慮し、自身が一歩下がって部屋を譲った形の言葉だった。
「済みません……迷惑掛け、て……」
最早、謝ることしか出来ない自分は扉をそのままに頭を下げ、角に当たった額を擦りながら男性に名前を訊ねる。
「あの……名前聞いても良いですか……」
「安田僚葵、大丈夫?」
「はい……安田さんこそ、さっき物凄い音してましたけど……」
「あぁ、時々するから気にしないようにして」
「わかりました、おやすみなさい……」
「おやすみ」