トワイライト(上)
斜め上どころか真上を目掛けて飛んだ状況は終止符が落ちてくるのを黙って待つしかなく、ふと昼間に凜太郎と会話した内容を思い出して首を振って掻き消した。
打ち明けようかと携帯を手にしたまま、暗くなった画面の中に映り込む顔を眺める。
伸び切ったショートボブは少し寝癖で曲がり、癖の付いた襟足が飛び跳ねて覗き、微かに揺れる左耳に下げた四葉のピアス、書かなくても生え沿ってしまう薄い眉毛と濃い睫、存在感の無い鼻に僅かに色味を帯びた唇。
身長も低くて体系も標準を行き来する重さで服装に気を遣うこともなく、いつも大きめのトレーナーにタイツかスキニー、またはタイトジーンズで秋冬はウェスタンブーツを履き、春夏はコンバースのシューズ。
それに比べて谷口は身長も高くて体系も引き締まり、同じ服を着まわしながらも何処か洒落ている。
どう考えても不釣合いで一緒に並ぶだけでも肩の荷が重くて仕方ない。
『大事にするから』などと何度か言われ、慣れた訳ではないけれど信じられる要素もある。
丁寧に且つ確実に卒なく仕事をしている谷口は自分を丸ごと受け入れ、言葉通りに扱いながら付き合うと態度でも示していた。
こうして理由を付けて我侭を並べてる間に誰かが攫ってしまい、仕方ないなと諦めて同じことを繰り返す。
まだ今の自分は結婚も付き合う事も考えられず、早めの対処を迫られているのを感じていた。
そこで思い付いたように携帯に触れ、アドレス帳を辿ってボタンを押す。
時計は丁度零時を印しており、今頃は閉店した後だろうと踏んでコール音を耳にしていた。
留守番電話に替わった辺りで耳から外して切り、何処かで機会を設けようと考えてベッドに潜り込む。
温かい布団に包まれながらも何となく気になって携帯を取り出し、メッセージでも打とうかと手を掛けると同時に鈍い音が響いた。
床を強く叩いたような音は眠ってる途中でも幾度か鳴り、その度に起こされて漸く眠りに就けそうな瞼に朝の光りが降り注ぐ。
急かすような日差しの中で微睡んでいると、ドアを軽快に叩く音に目が覚める。
昨夜の音で敏感になった耳を恨み、重い身体を引き摺ってドアを開けた。