トワイライト(上)
「おはよう……昨日は煩くてごめん……眠れ……なかったよね……」
「はい……全く眠れませんでした……」
隙間から見える顔は相変わらず罰が悪そうで居心地が無さそうだった。
「本当にごめん……今日遅くなるから戸締り確認して寝て
この辺、意外と物騒で前も変なの出たらしいから……」
「分かりました……いってらっしゃいませ……」
何気なく口にした言葉に彼は笑みを浮かべて返す。
「行って来ます、おやすみ」
その顔は此方が静かにドアを閉める間際まで覗いていた。
ベッドに潜り込むまでに足音は聞こえ、目を伏せた瞬間に玄関を閉める音がする。
次第に訪れた静寂に身を任せて眠りに就く。
薄れ行く意識の狭間で携帯の着信音が鳴るのも他所に深く潜り込んだ。
何故か蜃気楼を前に誰かと並んで立って眺めている。
かさついた指が自分の手を辿って絡み、強い風が吹き抜ける合間に微かな声が流れた。
『俺と……居て……これからも……から……』
これは夢だと分かる覚束無い言葉が鼓膜を揺さぶり、意識を沸々と湧き上がらせていく。
どのくらい眠っていたのか、目線を投げた窓辺は既に群青色の空が下りていた。