トワイライト(上)
枕元に沈んだ携帯を手にし、部屋を抜け出してリビングのソファーに腰を掛ける。
僅かな夢の現に谷口を重ねてしまい、促されるように発信履歴を辿って携帯を耳にしていた。
「もしもし?どうした、休みなのに珍しいな」
一回目も鳴り終わらない間に低めの声が耳に飛び込み、若干の甘さを持った口調が鼓膜を優しく震わせる。
「……谷さん、これから空いてる?」
「空いてるよ、どこ行く?お前の好きな寿司屋でも予約しとく?」
短い言葉に何かを察した谷口は素早く提案を持ち掛けて来た。
「何処でもいいよ、支度するから、決まったらメール送って」
「わかった、危ないからタクシーで来いよ、俺が支払うから」
「それくらい自分で払えるよ、じゃ、後で」
たった二言三言交わしただけでも良く分かる。
この後は凜太郎の言葉通りに谷口が本気で来る事も知っていた。
携帯を手に自室に戻る合間にメッセージが届き、確認もせずに身支度をして部屋を抜け出す。
静まり返ったリビングを眺め、誰も居ないのに声を落としていた。
「行ってきます……」
ふと罰の悪そうな顔が目に浮かび、少しだけ笑みが零れる。
マンションから抜け出してタクシーを拾い、携帯を確認しながら行き先を告げた。