トワイライト(上)
「お釣りはいいです」
店先に滑り込んだタクシーの助手席に近付いて軽く窓を叩き、すぐさま札を持った指先を伸ばして運転手に渡した。
流れるようにドアが開くと、まるで谷口は執事のようにドアに手を掛けて佇み、此方が車と距離を取ったのを確認してから声を掛けて来る。
「その顔は寝起きだな、昨日は忙しくて出れなかった、ごめん」
「別に気にしてないよ、お腹空いてるから先に食べさせて」
軽く会話をしながら店へと進み、個室に入って向かい合わせで腰を下ろす。
「何でも好きなの頼んでいいよ」
そう言って谷口はメニュー表を差し出し、煙草に火を点けて吹かした。
「じゃぁ、一番高いやつ」
「えぐいな、お前」
呆れた口ぶりで言い放ち、茶を運んできた店員に注文を告げ、メニューをテーブルの脇に立て掛けながら続ける。
「無事に引越しは済んだの?」
「昨日、漸く片付いた」
「ルームシェアだっけ?相手とはもう会ったの?」
誘導尋問のような言葉に思わず息を飲み込んで返す。
「……忙しいみたいで、まだ」