トワイライト(上)

谷口は暫く煙草を吹かした後で静かに言う。


「それで?話ってなに」


睫の陰りが帯びた瞳が此方を捉えたままでいた。


「……私……谷口さんとは付き合えない……」


その言葉に唇を少し嚙み、谷口は目を伏せて煙草を消す。


「分かってるよ、わざわざ言いに来たの、そんな事」


「言わなきゃ駄目だと思って……」


やたら大きな溜息を吐き、煙草を指に持ちながら谷口が呟いた。


「子供じゃないんだから、言われなくても分かってる」

「ごめんなさい……」


言葉も身も縮めた自分を眺め、ふと笑って谷口が言う。


「お前に好きな人が出来たら諦める、多分そいつ殴ると思うけど」


冗談か本気かも分からない言い草に苦笑いを浮かべて返した。


「殴るなら私の方だよ……悪いのは私だし……」


そこで手を止めた谷口の視線が此方に向き、じっと見つめたまま言葉を放った。


「お前を殴るくらいなら、俺はお前を抱いて後悔することを選ぶ」
< 19 / 49 >

この作品をシェア

pagetop