トワイライト(上)

谷口の目は本気で直ぐに手出しされても不思議じゃなかった。

けれど、絶対に行動には移さずに大人として一線を置いている。


「たまには送らせてくれてもいいのに」

「子供じゃないんだから、一人で帰れるよ」


何事も無く食事を終えて店先を出た大通りで立ち並び、タクシーを待ちながら他愛の無い会話を交わす。


「ねぇ、お前の好きなタイプってどんな人」

「なに、急に」

「別に深い意味はないよ、参考程度に聞いてみただけ」


そう言いながら谷口は自分の手を掬い取り、ポケットの中に招き入れた。

柔らかい温もりが瞬く間に帯びて行き、滑らかな手の平が包み込むように指先を掴む。


「どんな人がタイプかなんて、分かんないよ……自分でも」


そっと手を解いてトレーナーの袖で隠した。

谷口の行き場を無くした手が頭上に触れ、静かに撫でた後で軽く挙がる。


「そんなもんだよ、気付かないうちに好きになって
 知らない間に目で追い始めたら、もう止められなくなる」


ふと鼻で遇うように谷口は笑い、また執事のようにタクシーのドアを持って佇む。

「ありがとう、こんな私に告白してくれて……」

その言葉に谷口は軽く首を振って見せて言った。

「気を付けて帰れよ、また明日な」
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