トワイライト(上)
大きなビルのフロアーの一画に在るカラオケ屋で働き出して6年目、周りはゲームセンターや漫画喫茶などが設備されており、一番立地の良い角の一画は定期的に店が変わって今度は美容室が設置されるらしい。
店先の窓辺に貼られた広告紙の中で微笑む男性モデルを眺め、そこに印された開店初日の日付と見るからに女性ばかりを集客するような概観に溜息が落ちる。
斜め向かいに並んだ店に戻ると、谷口が開店準備に取り掛かってる最中だった。
先程の件など無かったように店内の隅々を整理して回り、受付のレジ前に立って少し険しい面持ちを浮かべながら真剣な目で金銭を投入している。
それを横目に伝票クリップボードを一つずつ拭き、隣に並んだ谷口を見回して考え始めていた。
谷口の想いを知ったのは二十歳になる手前。
いつものように受付で開店準備をしながら、確認の点呼をされる中で紛れ込んで来た。
「補充は完璧か?」
「はい、確認しました」
「照明の確認は?」
「各部屋、大丈夫です」
店に働き出し始めてから谷口は自分に目を掛け、厳しい教育と指導を徹底して行われるのが少し煩わしく思ってた頃。
「非常口の確認」
「大丈夫です」
そこで大きな溜息を洩らすと、隣に居た谷口が静かに言った。
「お前のこと好きだから、俺と付き合って欲しい」