トワイライト(上)
何度か言われて真面目に考えては見るものの応じる事は出来ず、その理由を挙げれば限が無くて谷口の告白には今一歩を踏み出せないで居る。
訪れる女性客やバイトの女性、一緒に歩けば通り過ぎる女性が目線を止めてしまう人。
そのような男性と付き合う事など自分には重荷すぎて負担でしかない。
その日はバイトの"ナナちゃん"が無断欠勤で谷口と二人きりで業務を行い、冬休みに入った平日が息を吐く暇も無く過ぎ去っていた。
仕事を終えてから店を出て何気なく視線を投げた美容室の前、練習用のマネキンを抱えた男性が店先で立ち往生しているのが見える。
店を閉めようとしてるか開けようとしてるのかも分からず、声を掛けようかと足を踏み込んだ時。
男性の手から練習用の頭が零れ落ち、生首のような物体が鈍い音を立てて転がって来る。
思わず顔を強張らせ、躊躇う手に男性が声を掛けて来た。
「ごめん、それ乗せて貰っていい?」
恐る恐る拾い上げ、男性が両脇に抱えた頭の真ん中に静かに乗せ、一歩身を引いて様子を伺う。
「ありがと、助かった」
そう言って男性は踵を返し、再び店先の扉を開けようと手を伸ばしている。
だがしかし、両脇の首や顎で押さえた首が邪魔して苦悩してる様子が見えた。
『床に置けばいいのに』などと思いながらも自然に足が向いて声を掛ける。
「手伝いましょうか?」
「ごめん、ドア開けて貰っていい?」
男性の言葉に軽く頷いてドアを開け、進んで行く背中に再び声を掛けた。
「じゃぁ、失礼します」