Sweetな彼、Bitterな彼女
「紅は、社内の噂に疎いから知らないと思うけど……あれ、今年の一月に入社したばかりの話題の新人デザイナー。独身の女性社員が、こぞってモノにしようと熾烈な争いを繰り広げてる」
詩子の言葉を疑うつもりはない。
あの容姿だ。モテるのは当然だろう。
しかし……。
「いくら顔が良くても、経費請求は新人研修で必須の項目でしょうがっ! いったい、誰が教育したのよっ!?」
「あれほどの逸品を前にして、そこが気になるのはあんたくらいだわ」
怒るわたしに、詩子は溜息を吐く。
「中身がなければ、逸品とは言えない。ハリボテよ」
「あのね。うちの会社は、業界の国内シェアのほぼ半数を独占している上場企業よ? 中身のない人間を雇うわけないでしょうが。白崎 蒼は、大学時代にあらゆる分野のデザインコンペを総ナメしたって逸話の持ち主なのよ。卒業後は、海外のデザイン事務所でインターンをしていたんだけど、うちの社長が口説き落として、日本へ連れ帰ったらしいわ」
「え。そんなに、すごい子なの……?」
あんな派手な髪をして、どう見てもチャラ男でしかないのに。
驚くわたしに、詩子は苦笑した。
「そうよ。すごいの! それに、あの髪は染めてるんじゃなくて、地毛」
「嘘……」
「嘘じゃない。イギリスかどっかの血が混じってるらしいわ。中身も外身も有望株よ。どうする? 紅」
にやにや笑う詩子に、わたしはむっとして答えた。
「どうするもこうするも……チョコあげただけだし」
「ふうん?」
「年下は、趣味じゃない。社内恋愛も興味ない」
社外で付き合っても面倒なことは起きるのだ。
社内で付き合えばどうなるか、想像に難くない。
きっぱり「どうこうなる可能性は、まったくない」と宣言する。
けれど、詩子は小首を傾げ、にんまり笑った。
「ひと月後にも、同じことを言えるかしらね? 紅」