Sweetな彼、Bitterな彼女
社員食堂での初遭遇翌日。
終業時刻間際に、蒼は正しく書き直した領収書を自ら財務経理部まで届けに来た。
「紅っ! 直した領収書持って来たよ」
(なぜに、名前呼び……)
あきらかに一般社員とは毛色のちがう蒼の登場で、フロアは一瞬静まり返ったが、すぐにあちこちで囁き声が生まれる。
主に、女性社員のいるあたりから。
「確認します」
ひしひしと背中に彼女たちの視線を感じながら、領収書の束を確認していく。
全部で二十枚。
金額も商品名も購入店舗もバラバラの領収書の宛名は、社名プラス部署名に修正され、内訳もチョコレートの詳しい品名が記載されていた。
経費請求書の用途は、『デザイン資料として』と修正されていた。
「これでいい?」
「はい。大丈夫です」
「よかった! ちゃんとしてないと、あとで小田さんに怒られるから……」
蒼は、大げさに胸を撫で下ろした。
小田さんとは、インフルエンザでダウンしている企画デザイン室の事務担当者だ。
四十代半ばの古株で、社内の変わり者集団に規則を守らせることができる、唯一の人物と言われている。
「口座振込になるので、後日確認してください。それから……できるかぎり、各部署に配られている経費用のクレジットカードを使うようにしてください。そうすれば、立て替えて払う必要もなくなるので」
清算業務の効率化を目指し、経費支払い用として各部署にクレジットカードを支給してから、約一年。現金で立て替えてしまう社員が未だに多く、なかなか浸透していなかった。
「そう言えば、小田さんがそんなこと言ってたかも……。あとで探してみる」
「ありがとうございます」
見た目はチャラいが、話せばわかるタイプらしいと見直した矢先、蒼は仕事とはまったく関係ないことを訊ねてきた。
「ところで、紅は何時に仕事終わる?」