Sweetな彼、Bitterな彼女

蒼は、「聞いていて気持ちのいい話じゃないと思うけど」と前置きして、ミカとの関係、彼女との付き合いをやめられなかった理由を話してくれた。


「ミカとは……大学一年の頃に一度だけ、関係があった。酔ってて、記憶もなかったけど、ヤリ逃げはしたくないから、ちゃんと付き合わなくちゃって思った。でも、ミカには大勢セフレがいるってわかって、やめた」

「セフレでは、満足できないから?」

「紅、気づいてないの? 俺、ものすごく独占欲が強いんだよ? たとえセフレでも、誰かと共有するなんて無理」


蒼は「だから、ミカとはあり得ない」と苦い表情で宣言した。


「ミカは、顔を合わせればあからさまに誘って来る。プライベートでは、なるべく会わないようにしてたんだ。それが……プロジェクトのメンバーに選ばれた。他のメンバーとの兼ね合いもあるし、ミカだけ別扱いするわけにはいかなかった」


ミカとはどういう関係なのか、素直に訊いていれば、蒼も素直に答えてくれただろう。
でも、わたしは蒼と話すことより、目にした光景を想像で補って、確かめようとしなかった。


「KOKONOEにもミカのセフレがいるらしいから、それで選ばれたんだと思う」


フリーで働くのに、コネは必須だ。
どんなコネを使おうとも、当人の勝手だし、とやかく言うようなことでもない。

ただ、身体を使って仕事をもらうのが常態化すれば、その分仕事への評価を差し引かれ、自分で自分の首を絞めることにもなりかねない。


「俺が、ミカと仕事することは、もうないよ。共同作業が必要な場合、メンバーは所長が厳選した人たちになる。クライアントからのデザイン以外の要望については、竜が間に入って、交渉してくれる。紅と過ごす時間も、ちゃんと確保できる。紅が不安になるような付き合いもしない。だけど……」


蒼は言葉を切り、いたずらっ気のある笑みを浮かべた。


「嫉妬して、俺を独占したい、束縛したいって思った時は、言って?」

「言ってって……イヤな気持ちになったりしない? そういうの……重いって思わない?」


どう考えても、歓迎されない感情だろうに、蒼の考えはまったく違った。


「どうして? 俺にとっては、いいことだよ! だって、それだけ俺のことが好きってことなんだよ? 嫉妬する紅は、きっとかわいいと思うし」


「かわ……かわいいって……それはないでしょ」

「紅は、かわいいよ。普段は見せないようにしてるけど、すぐに照れるところとか。恥ずかしがり屋なところとか」


デザイナーなのだから、蒼の審美眼や観察眼は確かなはずだ。

それだけに、不思議だった。


「蒼は……どうして、わたしなんかを好きになったの?」


素直でかわいい、彼に似合う子を選べるだろうに。
もっと器用で、もっと彼の仕事を理解できるひとだって、選べるだろうに。

どうして、こんな面倒な年上の女がいいと思ってくれるのか、わからなかった。


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