Sweetな彼、Bitterな彼女
わたしが「いい」と言わなくても、蒼はキスをする。
嗚咽を堪えて震える唇で、懐かしい感触を味わった。
甘く、柔らかく、優しいキス。
出会った頃と同じキスだった。
「紅……好きだよ」
「……チョコレートよりも?」
「紅のほうが、美味しい。でも……両方食べられたら、もっと美味しいかも」
唇に押し当てられたのは、チョコレート。
キスの熱で溶けていくチョコレートの味は、甘く、ほのかに苦い。
「……抱いてもいい?」
わたしが「いい」と言わなくても、蒼はやめない。
肌に触れる手の温もりも、首筋を辿る唇の熱も。
蒼が与えてくれるものすべてが、わたしを満たしていく。
深く繋がり、溜め込んでいた欲望を解放しても、離れたくなかった。
力いっぱい抱きしめられて、同じ強さで抱き締め返す。
離れていた時間、離れていた距離を埋めるように、何度も抱き合った。
わたしが音を上げるまで、どれくらい時間が掛かったのか、わからない。
目をつぶった数秒後には、気怠い疲れと人肌の温もりに眠気を誘われた。
「紅の誕生日プレゼントに、黒猫グッズをいろいろ作ったんだ。でも、全部家に忘れてきた……今度、持って来るよ」
蒼の囁きを夢うつつに聞きながら、相槌を打つ。
「うん」
「紅……もう、黙っていなくならないで」
「ん……」
「紅……これからは、たくさん話をしよう?」
「んん……」
「毎日は無理でも、会いに来る」
「……うん」
「だから……もう一度、俺を紅の恋人にして?」
「…………」
「紅?」
「…………」
「ねえ、紅? 寝ないでよ! 返事は?」
揺さぶられ、返事をする代わりに、美味しい唇にキスをした。
「蒼……もう、眠い」