Sweetな彼、Bitterな彼女
Sweet or Bitter 3


「黒田先輩、もうお昼ですよー。わたし、先に食べちゃってますよー」

「え? あ、本当だ」


経理担当として、現地採用された上野(うえの)さんの声で、とっくに十二時を過ぎていることに気がついた。


「黒田先輩、最近は特に働きすぎですよ! 昨日も一昨日も、残業してたじゃないですか」

「まあね……でも、あとひと月ちょっとしかいられないと思うと、あれもこれも気になっちゃって……」

「うう……そんなこと言わないでくださいよぉ。ずっとこっちにいてください。わたし、三橋さんと二人じゃ不安です……」


かぶりつこうとしていた大きなおにぎりを手に、上野さんはしょんぼり肩を落とす。

今年の春に短大を卒業したばかりの彼女は、真面目な頑張り屋さんだが、ちょっと心配性なところがある。
掴みどころのない三橋さんに不安を感じるのは、わからなくもないけれど……。


「三橋さんは、いい加減そうにみえてちゃんと仕事はするから、大丈夫。わたしがいる間に、存分に羽を伸ばしておこうと思ってるのよ、きっと」


「だといいんですけど……」


今日の診察の結果次第では、明日にでも三橋さんの全快祝いができるかもしれない。
今度こそ、バリバリ働いてもらわなくては困る。


「わたし、お昼は外に出て来るね? 何かあったら電話して」

「はーい! 行ってらっしゃい!」


八月も半ばを過ぎると、もう秋だ。
窓の外には、気持ちのいい秋晴れの空が広がっている。

少し身体を動かしたくて、近くの飲食店にでも行こうと席を立った瞬間、デスクに置いていたスマホが着信を知らせた。

送られて来たのは、蒼からのメッセージ。
画像付きだ。

白い用紙の左隅に、汗だくでぐったりした白猫の姿。右隅に、ビールを呷る黒猫の姿が描かれている。

蒼が、ほぼ毎日送って来る白猫と黒猫の絵を仕事の合間に見るのが、ちょっとした息抜きになっていた。



現在、わたしと蒼は再交際中だ。


< 113 / 130 >

この作品をシェア

pagetop