Sweetな彼、Bitterな彼女
Sweet or Bitter 3
「黒田先輩、もうお昼ですよー。わたし、先に食べちゃってますよー」
「え? あ、本当だ」
経理担当として、現地採用された上野さんの声で、とっくに十二時を過ぎていることに気がついた。
「黒田先輩、最近は特に働きすぎですよ! 昨日も一昨日も、残業してたじゃないですか」
「まあね……でも、あとひと月ちょっとしかいられないと思うと、あれもこれも気になっちゃって……」
「うう……そんなこと言わないでくださいよぉ。ずっとこっちにいてください。わたし、三橋さんと二人じゃ不安です……」
かぶりつこうとしていた大きなおにぎりを手に、上野さんはしょんぼり肩を落とす。
今年の春に短大を卒業したばかりの彼女は、真面目な頑張り屋さんだが、ちょっと心配性なところがある。
掴みどころのない三橋さんに不安を感じるのは、わからなくもないけれど……。
「三橋さんは、いい加減そうにみえてちゃんと仕事はするから、大丈夫。わたしがいる間に、存分に羽を伸ばしておこうと思ってるのよ、きっと」
「だといいんですけど……」
今日の診察の結果次第では、明日にでも三橋さんの全快祝いができるかもしれない。
今度こそ、バリバリ働いてもらわなくては困る。
「わたし、お昼は外に出て来るね? 何かあったら電話して」
「はーい! 行ってらっしゃい!」
八月も半ばを過ぎると、もう秋だ。
窓の外には、気持ちのいい秋晴れの空が広がっている。
少し身体を動かしたくて、近くの飲食店にでも行こうと席を立った瞬間、デスクに置いていたスマホが着信を知らせた。
送られて来たのは、蒼からのメッセージ。
画像付きだ。
白い用紙の左隅に、汗だくでぐったりした白猫の姿。右隅に、ビールを呷る黒猫の姿が描かれている。
蒼が、ほぼ毎日送って来る白猫と黒猫の絵を仕事の合間に見るのが、ちょっとした息抜きになっていた。
現在、わたしと蒼は再交際中だ。