Sweetな彼、Bitterな彼女
フロアには、蒼がデザインした『A to _』シリーズも展示されている。
いくつかの品番には「入荷待ち」のシールが貼られていて、中には生産が追い付かず、半年先まで納品待ちのものもあるようだ。
あちこち探しまわった個人のお客様が、展示品でもいいから購入したいというのをお断りしなくてはいけないのが辛い、と売り場スタッフが愚痴をこぼすのを何度か耳にした。
郊外の支店では展示品も販売するが、新支店は「ショールーム」としての役割を強く求められているので、基本的にお断りしているのだ。
「そう言えば、二次を通過したらしいな」
「はい?」
「受賞発表は来週のようだが、本社はすでにお祝いムード一色だぞ」
「何のことですか?」
雪柳課長の話がさっぱり見えず、首を傾げる。
「聞いてないのか? 『A to _』シリーズは、JDAにエントリーしてるんだよ」
JDAは、インテリアに限らず、総合的にすばらしいデザインの製品を選出し、表彰するものだ。大規模な展示会も行われ、毎年国内外の注目を集めている。
KOKONOEでは、毎年いくつもの商品をエントリーしていて、社員は当然知っているべきことなのだが……新支店オープンの激務に追われ、すっかりチェックするのを忘れていた。
「KOKONOEとしてのエントリーだが、もちろんデザイナーである白崎の名前も出るし、プレゼンとなればあいつがやることになるだろうな」
「ああ、それで……」
二つ目の画像の意味がようやく腑に落ちた。
「おい。聞いてないとは、どういうことだ? おまえと白崎は、相変わらず、すれ違ったままなのか?」
険しい表情で問い詰められ、慌てて首を振る。
「ち、違います! 大丈夫です」
「本当だろうな?」
「本当です。さっき、これが送られてきてたんですけど、意味がわからなかっただけで……」
蒼から送られてきた画像を見せると、雪柳課長は呆れ顏になる。
「これでわかるわけがないだろう……まったく。おまえと白崎は、傍から見ていて、もどかしいんだよ!」
「すみません……」
二階フロアをひと通り巡り、再びバックヤードの階段で一階へ下りる途中、雪柳課長が唐突に訊ねた。
「それで、本社に戻ったらどうするつもりなんだ?」
「どうする、とは?」
「結婚しないのか?」
ズバリと訊かれ、一瞬、言葉に詰まる。
蒼は、わたしが本社へ戻ったら、一緒に暮らそうと言ってくれていた。
具体的に結婚の話をしたわけではないけれど、同棲の先にあるものをまったく考えないわけではない。