Sweetな彼、Bitterな彼女
即断即決の雪柳課長に逆らえるはずもない。
わたしはあっという間に帰宅の支度を整えられ、課長と共にタクシーで近くの総合病院へ。
取り敢えず内科で診察を受け、諸々の検査の後……。
「三か月、というところですね」
「え?」
腹部エコーに映る白いモヤッとした影。
「これが、赤ちゃんですよ。おめでとうございます」
「…………」
茫然としたまま、産婦人科での受診について説明を聞き、診察室を出る。
「どうした? 黒田」
待合室で、通りすがりの患者さんやスタッフたちの熱い視線を一身に集めていた雪柳課長が、立ち上がる。
「……妊娠、してました」
「え?」
「三か月だそうです」
「…………」
目を丸くして、ぽかんとしていた雪柳課長は、なぜか突然笑い出した。
「ははっ……どうしておまえと妙な縁があるのか、わかった気がするよ。黒田」
「妙な縁ってなんですか」
「おまえを助けるのは、俺にとっての贖罪ってことだ」
「……贖罪?」
一瞬、雪柳課長の顔が歪んだ気がしたが、すぐにいつもの調子でわたしに指図する。
「俺が会計しておいてやるから、おまえは白崎に電話しろ」
会計用の書類を奪われて、休憩スペースに移動した。
スマホを取り出し、なんとなく背筋を伸ばす。
打ち合わせ中などでない限り、電話に出ると言っていたが、タイミングよく繋がるかどうか……。
『もしもし?』
ワンコールで、蒼は応答した。
『どうかした? 何かあったの? 紅?』
やや焦った様子で畳みかけるように訊ねる。
わたしが勤務時間中に電話したことがなかったからだろう。
「蒼、いま少しだけ話しても大丈夫?」
『大丈夫。静かなところの方がいい?』
人の話し声が聞こえるが、うるさく感じるほどではない。オフィスにいると思われる。
「そんな深刻なことじゃないから」
わざわざ移動してもらうほどのことでもないし、と単刀直入に用件を告げることにした。
「あのね、ついさっき妊娠してることがわかったの」
『…………』
「三か月だって」
『…………』
「こっちに来てから、ずっと忙しくて、喘息の薬を貰いに行くのがやっとで……ピルを切らしてたの。蒼が誕生日に来てくれたあとから、もう一度飲み始めていたんだけど……」
『…………』
「蒼? 聞いてる?」
『……聞いてる』