Sweetな彼、Bitterな彼女
蒼の手を取って、車を降りようとしていたわたしは、さらりと言われた重大な言葉に眉を引き上げた。
「ん。兄妹がいたら楽しそうだなって思って。俺、ひとりっ子だから」
にこにこ笑う蒼は「もちろん紅次第だけど」と付け加えた。
「紅が欲しいって言うなら、頑張るよ」
「な……何を頑張るのよっ!」
「え? 作るのに決まってるでしょ」
「そう、そういうことは……ちゃんと一人目が無事生まれてから言って」
「無事、生まれてきてくれるように、隅々まで紅のお世話をするよ」
「隅々……普通でいい」
「じゃあ、普通にする」
蒼はわたしを抱き上げて車から降ろし、こめかみに、頬に、さらには唇にキスをしようとする。
「あお、蒼っ! い、家に……」
「家でしたいの?」
「蒼っ!」
「紅ってば、誰も見てないのに真っ赤」
(く、悔しい……蒼はからかっているだけだとわかっているのに……)
「どうぞお入りください。奥様?」
恭しく一礼して扉を開ける蒼をひと睨みし、ダウンライトで照らされた通路を進む。
わたしの後をついて歩く蒼は、玄関に出たところで「あ」と声を上げた。
「玄関から入ればよかった……。そしたら、紅に鍵を開けてもらえたのに。これ、紅の新しい鍵。玄関、車庫、それから、門を開けるリモコン」
蒼がポケットから取り出したものを受け取る。
鍵が二つと小さなリモコンが二つ。
黒と白、二匹の猫が重なり合うキーホルダーについていた。
猫たちのお尻には、『A』と『K』の文字がある。
「これ……」