Sweetな彼、Bitterな彼女
「泣いてる紅もかわいいけど、笑ってくれたほうが嬉しいんだけど」
ボロボロと泣くわたしに苦笑しながら、蒼がジーンズのポケットから取り出したのは、チェーンにぶら下がるダイヤモンドの指輪。
「紅。婚約指輪、受け取ってくれる? 嵌めるのは、来年でいいから」
シンプルだけど……猫がダイヤモンドを抱えて指に巻きつくようなデザインだ。
「これなら、毎日着けられるかも」
「大げさなものだと普段着けられないって、事務所の先輩の奥さんが言ってたから」
「ありがとう、蒼。すごく嬉しい」
「気に入ってもらえて、よかった。しばらくは……指輪じゃなく、首輪だけどね」
わたしの首に指輪つきのネックレスをかけた蒼は、ためらいがちに訊ねた。
「明日、紅も来る?」
蒼は明日、『A to _』シリーズのデザイナーとして、JDAの公開審査でプレゼンをすることになっている。
二次審査を通過した『A to _』シリーズは、ベスト五十に選ばれた。
そこからプレゼンを経て、大賞と金賞が決まるのだ。
すでに、十分な宣伝効果は得られているものの、できれば賞を獲りたいと思うのは、自然なことだろう。
「もしも賞を獲れたら……ううん、賞を獲れなくても、紅に聞いてほしいことがあるから、絶対に来てほしい。あ、でも、具合が悪かったら、無理しなくていいから」
「大丈夫。詩子と一緒に行くから。楽しみにしてる」
公開審査は、JDAの二次審査を通過した製品の展示会を兼ねて行われる。
様々な分野の最先端を行く製品が並ぶとあって、KOKONOEでは勉強のために展示会を訪れるよう社員を奨励していた。
「うん、楽しみにしてて」
笑いながら、蒼はわたしをふわりと抱きしめる。
蒼に嬉しいできごとがあれば、わたしも嬉しい。
(蒼が、賞を獲れますように)
そんな願いをこめて、わたしは蒼をぎゅっと抱きしめた。