Sweetな彼、Bitterな彼女
「誰にでも、そういうこと言ってるんじゃないの?」
うろたえているのを悟られたくないと思うあまり、きつい口調になってしまった。
蒼は、そんな私の態度にも気を悪くすることなく……それどころか、嬉しそうだ。
「ちがうよ。紅にしか――本当に好きな人にしか、言わない。だから、安心して」
「…………」
(こ、この展開は……まるでわたしが、その言葉を聞きたがっていたみたいじゃないの!)
「……ぶはっ」
わたしたちのやり取りを横で聞いていた詩子が、噴き出した。
「紅、あがくのはやめなさいよ。蒼くんの方が、一枚も二枚も上手」
「あ、あがいてなんか……」
「ごめんね? 蒼くん。紅が素直じゃなくて。懐くまで、人より時間が掛かるのよ。この子」
「うん。でも、そこがかわいいと思ってるから、大丈夫。俺、猫に好かれるし」
(ちっとも大丈夫じゃない! それに、猫に好かれるのと、どういう関係が……?)
「あ。もちろん、一番好かれたいのは、紅だけどね?」
「――っ!」
あやうくお味噌汁をぶちまけそうになった。
(年下に振り回されるなんて情けない! 平常心……平常心を保つのよ、わたし!)
目をつぶり、深呼吸する。
「目をつぶるなんて、どうしたの? 紅。もしかして……キスして欲しいの?」
「ちがうわよっ!」
カッと目を見開けば、蒼は頬杖をついて、わたしを見つめてニコニコ笑っていた。