Sweetな彼、Bitterな彼女
蒼は、眠気覚ましのブラックコーヒーをがぶ飲みしているせいで、わたしの胃が荒れていることなどお見通し。
牛乳を苦手としているのも、いつの間にか知っている。


「……ありがとう」


ひと口飲んでほっと息を吐く。


「これ、紅の分」


蒼は、自分には甘いチョコレートマフィン、わたしには全粒粉パンのサンドイッチを手に入れていた。

すでに、空腹のピークは過ぎているけれど、じっと見つめられ、観念して手を伸ばす。

わたしが食べ始めるのを待って、蒼もチョコレートマフィンにかぶりつく。

半分も食べられないだろうと思ったのに、きゅうりの歯ごたえやトマトの酸味、卵とハムの絶妙なコラボに空腹を思い出し、気づけば食パン二枚分の量を完食してしまっていた。


「デザートもあるよ。紅が、甘いもの好きじゃないのはわかってるけど、試してみて? 俺の学生時代の友だちが、パッケージをデザインしたんだ」


蒼がなぜかお財布から取り出したのは、手のひらに収まるサイズの板チョコ。

シンプルでおしゃれな包装紙に包まれている。
フェアトレード製品で、カカオ分が80%ちかい。甘さ控えめのようだ。


「チョコレートに含まれている成分は、美容や健康に効果があると言われているし、本当に美味しいから。騙されたと思って、食べてみて?」


そんなに言うなら、と軽く力を込めて割ったひとかけらを口にしてみた。

ほんのり甘さは感じられたけれど、わたしが抱いていた「チョコレート」のイメージとは違い、香ばしい苦みもある。


「どう?」

「うん……これなら、食べられそう」

「ダークチョコレートは、頭を使い過ぎて疲れた時にオススメだよ」

「白……」

「蒼」


じっと見つめられ、言い直す。


「……蒼も、疲れた時に食べるの?」

「俺は、つい甘いのを食べちゃうかも。甘いのは逆効果なんだけど、どうせ食べるなら好きなものを食べたいし」

「そんなに好きなら、チョコレート会社に就職すればよかったんじゃない? パッケージのデザインをする仕事もあるでしょう?」


わたしが冗談めかして言うと、蒼は真顔で答えた。


「うん。子どもの頃は、菓子メーカーに就職したいと真剣に考えてた」


そこまで執着するものを持たないわたしには、蒼の気持ちは理解できない。

でも、「好きだ」と断言できるものがあるのは、羨ましいと素直に思う。


「それなら……どうして、KOKONOEに? 家具とチョコレートは、ぜんぜん繋がらないと思うんだけど?」

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