Sweetな彼、Bitterな彼女
「子どもの頃、俺の部屋の家具はKOKONOEのものだったんだ。カラフルで、洒落ていて、使いやすくて……俺、自分の部屋で過ごすのが、すごく好きだったし、楽しかった。だから、自分もそんな家具を作ってみたいと思ったんだ」
眩しいくらいの笑顔で語る蒼を見て、彼の作った家具なら、きっと好きになれるだろうと思った。
蒼がデザインする家具は、陽気で、魅力的で、それでいて自然と使う人の生活に溶け込む――蒼のような存在になる気がした。
「チョコレートをデザイン資料にしていたってことは、チョコレートみたいな家具を作るつもりなの?」
「そのまんまじゃないけどね。なかなか思うようなデザインはできなくて、室長にダメ出しばっかりされてる」
わざとらしく嘆いてみせる蒼は、飄々としていて、周囲の評価など気にしていないように見える。
でも、企画デザイン室はKOKONOEの根幹だ。
いくら前評判が良くても、実際に売れる商品を生み出せなければ、「デザイナー」としては評価されない。
新人でも、中途採用は即戦力とみなされる。
プレッシャーを感じないはずがない。
「俺がデザインした家具が商品になったら、紅の家に置いてくれる?」
ねだるようなまなざしで見つめられると、なんとなく落ち着かない。
視線をさまよわせながら、好きではないはずのチョコレートをせっせと口に運ぶ。
「そうね。甘くないチョコレートの家具なら。いま部屋にあるものは、どれも学生時代から使っているものだから、そろそろ買い替えたかったの。どうせなら、ファブリック類とかもトータルコーディネートできたら嬉しいかも」
「トータルコーディネートか……」
「あ、リーズナブルで品質がよくないとダメだからね?」
「ええっ!? 俺がデザインしたものなら、何でも気に入ってくれるんじゃないの?」
「デザインを気に入っても、部屋に合うかどうか、実際の物を見ないとわからないでしょ。
家具は、洋服とちがって簡単に買い換えられるようなものじゃないし、部屋の雰囲気をガラリと変える。下手に妥協して、後悔したくない」
「確かに……」