Sweetな彼、Bitterな彼女
しばらく黙って考え込んでいた蒼は、何か思いついたのか、急に立ち上がった。
「うん、なんか見えてきたかも。紅、先に行くねっ!」
「あ、ちょっと待って、蒼!」
慌てて立ち去ろうとする蒼を引き止める。
「なに?」
「ついてる。マフィン」
子どもじゃないんだから、と苦笑しながら手を伸ばし、唇に触れたところでハッとした。
チョコレート色の瞳が、これ以上はないくらいに見開かれている。
(あ……わたし、何をして……)
「ご、ごめんっ……ええとっ」
慌てて紙ナプキンを取り上げようとした手に、大きな手が重なった。
「あ、お……」
掠めただけの、キスとも呼べないキス。
けれど、確かに甘いチョコレートの味がした。
顔が熱くなり、心臓が破裂しそうな勢いで早鐘を打つ。
物も言えずに固まるわたしに、蒼が囁いた。
「ごちそうさま」