Sweetな彼、Bitterな彼女

「興味があるのは、わたしだけじゃないんじゃない? たくさん、チョコレート貰っていたみたいだし」

「義理以外は受け取ってないよ。自分から欲しいってねだったのは、紅のチョコレートだけ。紅以外の人から貰えなくても、ぜんぜん惜しくない」

「…………」


あれは、元カレのために買ったチョコレートだった。

それなのに、蒼は心を込めたお返しをくれた。


(好意に嫌みで返すなんて、いくらなんでもひねくれすぎだわ……大人げない)


「ごめん……イヤなこと言って。これ、ありがとう。大事に使わせてもらう」


素直に謝り、さっそく自分の家の鍵を付けてみた。


「うん、大きさもちょうどいいし、鞄の中でも行方不明にならなさそう」


しかし、てっきり喜んでくれると思ったのに、なぜか蒼は憮然とした表情になった。


「紅……ぜんぜんわかってないね」

「わかってないって、何が?」

「男が何かプレゼントする時は、下心があるんだよ」

「キーホルダーに下心なんてあるの? 指輪とかアクセサリーでもないのに?」

「…………」


何が蒼の機嫌を損ねてしまったのか。
さっぱりわからない。


「ねえ、どうしたの? 蒼? 蒼くーん?」


そっぽを向く蒼を覗き込もうと身を乗り出したところへ、「おまちどーっ!」とビールのジョッキを突き出される。


「こちらもどうぞーっ!」


さらに山盛りの焼き鳥が差し出される。


「……もういいよ。せっかくの串が冷めるし。食べて!」


蒼は、キーホルダーに込められた下心を語ろうとはせず、山盛りの焼き鳥を受け取り、わたしの目の前に置いた。


「いただきます」


一応、女子らしく串から身を外して食べようとしたら「邪道だよね?」と叱られた。


「いつも社食で食べる時みたいに、食べてよ」


社食で焼き鳥など食べていない、とむっとしたけれど、詩子と飲んでいる時は……串から食べている。


「本当に、紅って……鶏肉好きだよね?」

「悪い?」

「悪くない。美味しそうに食べる紅を見るの、好きだから」

「…………」


蒼は、ビールのおかげか、機嫌が直ったようだ。

串に齧りつき、喉を鳴らしてビールを呷るわたしを横でじっと眺めていたが、いきなり、小さなスケッチブックとペンを取り出した。

あっという間に、焼き鳥をくわえている黒猫が紙面に現れる。

さすがデザイナーだけあって、上手い。

しかし、その思考回路は、ますます謎だ。

「紅を見てると、次々デザインが思い浮かぶんだよね」


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