Sweetな彼、Bitterな彼女
(あったかい……)
浮上していく意識の中、人肌の温もりに包まれていることを認識した。
擦り寄った固い胸からは、甘い匂いがする。
香水なのか、ボディソープなのかわからないけれど、どこかほっとする香り。
(んー……チョコレート?)
答えを求めて目を開けると、長い睫毛が見えた。
(あ、蒼っ!?)
すぐそこにある、あどけない寝顔。
昨夜のことを思い出し、軽いパニックに襲われた。
(い、一夜の過ちとかじゃないけど、でも、いきなりあんな……酔ってた、とは言えないけど……でも……床で……ソファーで……ベッドで……)
途切れ途切れではあるが、具体的な行為を思い出し、かぁっと全身が熱くなる。
(お、落ち着くのよ! ちょっと激しいセックスをしただけじゃないの! と、とにかく……一服、しよう)
眠る蒼をベッドに残して起き出した。
リビングから寝室まで、点々と脱ぎ散らかした服を拾い集めたものの、朝の五時からスーツを着たくない。
キャミソールにショーツという恰好で、精神安定剤――煙草を求めて鞄の中を探る。
COPD(慢性閉塞性肺疾患)になりたくないけれど、煙草以上の癒しが見つからなければ、永遠にやめられそうになかった。
シガレットケースとライターを取り出して、辺りを見回すが、灰皿らしきものは見当たらない。
キッチンへ行き、煙草に火を点ける。
つま先立ちになって換気扇のスイッチへ手を伸ばした時、背後から腰に回された腕に捕まった。
「ひゃっ」
色気のない悲鳴を上げた耳に、不機嫌そうな蒼の声が落ちる。
「なんで勝手に起き出してるの? 紅」
むき出しの肩に触れた唇の熱で、ビクリと大きく震えてしまう。
「あ、蒼、よく眠ってたから……。あ、あの、煙草、部屋でダメなら、外で吸う。ベランダ、あるよね?」
「外……その恰好で? 紅って、露出狂?」
「ちがうっ! しゃがめば外からは見えないでしょ」
「しゃがんで煙草吸うの? まさか、元ヤン? ガラ悪いよ」
「ちがうっ! べつに、ガラ悪くてもいいの! かわいい女を目指してるわけじゃないし」
「目指さなくても、紅はかわいいよ」
「は……?」